勝手に僻地散歩



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カブールにいってみた その5

アヘンには各国政府の管理のもとでライセンス生産されている合法アヘンと闇世界に流れる非合法アヘンの2種類がある。合法アヘンとは、モルヒネなど医療用に用いられるアヘンで国際的枠組みのもとで生産管理がなされているが、この合法アヘンは世界的に不足しているとの話を聞いた。

もし事実であるとするならば、何とも皮肉な話である。麻薬撲滅というお題目のみで、現実的な代替策がない現状においては、思い切ってアフガニスタンのアヘン生産を合法化し、国際的管理体制の枠組みの下に置くことで、医療目的で有効活用した方がよいのではないかという考えも浮かんでくる。実際にアフガニスタンのアヘンを医療用アヘンとして合法化すべきだと訴えるNGOも存在するし、そのイニシアチブをEU議会が支持しているという動きもある。

アヘン生産と交易は国際麻薬統制委員会(International Narcotic Control Board, INCB)が厳しく管理している。1964年に発効した麻薬単一条約(Single Convention on Narcotic Drugs)によって、インド産の生アヘンのみが世界市場で合法的に取引されている。INCBは、毎年の生産量を1,200トン、国内消費用には130トン、輸出用として870トンまわすよう生産管理と使途を厳しく定めている。しかし、実際には生産量が1,000トンを越えることは滅多にない。

ここ数年の合法アヘンの生産量は以下の通りである。
1999年  971トン
2000年 1,302トン
2001年  726トン
2002年  820トン
(出所:Opium Trading in India 2003)

毎年1,200トン程度で世界中の医療用アヘンの需要が満たせると言うことであれば、例えば2002年の不足分は400トン程度である。同じ年のアフガニスタンのアヘン生産量は、3,400トンである。全てが非合法マーケットに流れているわけだが、これを合法に転換したとしても需要を大きく上回る供給量であるがゆえに、いずれにしても、麻薬生産者を減らすという現在と同じ努力が必要になってくる。


しかし一方で合法アヘンの需要予測を行っている国はほとんどないと言う。INCBの報告書によると59%の政府が過去5年間、需要予測を本格的に調査していないと回答している。にもかかわらず、72%が需要予測は実際のニーズに合致していると回答している。つまり、「詳しく調べてはいないが、別に不都合が生じているわけではないから、足りているのだろう」という程度なのである。さらに言えば、そのような認識に基づいて定めているINCBの年間生産量1、200トンに、それほどの根拠があるわけではないということになる。医療使用のためのアヘン合法化を訴えるNGOであるThe Senlis Councilの需要予測は年間1万トンとしている。年間1万トンともなれば、世界中で生産されている非合法アヘンを含めて考えても供給過多にあるわけではない。

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<図(Figure)1,2ともに"Report of the Availability of Opiates for Medical Needs Special report", INCB 1996より>
世界209の国と地域を対象に行った調査によると、43%の国が医療用アヘンが不足したことがないと回答している。「ほとんど不足することはないが、ごくたまに不足することがある」と回答したのが26%、「ときどき不足する」が25%、「よく不足する」と回答したのが3%である。その理由としては、「輸入量が不十分」が29%、「配送遅れ、流通が滞るため」が23%、「高まる需要に追いついていない」が20%、「事務手続きの煩雑さ」が19%、「生産体制が不十分のため」6%となっている。また不足に陥った際にほとんどの国が迅速に入手できたとしている一方、34%が入手に手間取ったと回答している。先進国よりも発展途上国に不足を訴える国が多かった。


この調査結果を見る限り、医療用アヘンは先進国よりも発展途上国に行き渡っていないが、その不足の度合いはそれほど大きくなく、現在の生産量と生産体制を大幅に見直す必要性があるとは考えられない。

しかし中長期的に見ると医療アヘンを必要とする疾患を抱える患者は増加していく傾向にある。ある統計によると2015年までに1,500万人が新たにガン患者となる。そのうち600万人は発展途上国である。また増加を続けるAIDS患者にもがん患者同様ターミナルケアとして医療用アヘンの処方が必要となる。21世紀初頭の人類の2大疾病となるがんとAIDSはいずれも末期のPain Controlのため、医療用アヘンが必要なのである。

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<図:塩野義製薬HP「がんの痛み治療に関する、わが国の現状」より>
また現状においても十分に需要が掘り起こされているのかどうかという点もある。厚生労働省が出した報道発表資料によると、人口当たりのモルヒネ製剤の使用量トップのオーストラリアは人口100万人当たり97.8Kg、2位はカナダで84.8Kg、続いてイギリス84.3Kg、アメリカ59.0Kg、フランス43.9Kg、ドイツ16.2Kgとなっている。日本は11.0kgでトップのオーストラリアの10分の1である。

また別の統計によると、日本の主要医療用麻薬消費量はアメリカの19分の1、オーストラリアの14分の1、イギリスの5分の1という水準にあるという。モルヒネは末期ガンのペインコントロール(疼痛治療)以外に使われることはないうえに、オーストラリアに比べて日本にがん患者が少ないというわけでもない。日本の場合、使われるべき患者にモルヒネが使われていないという状況にあるのは確かなようである。中毒になる、死期を早めるなどの誤解も根強いようで、医者が処方をためらうケースも多いのかもしれない。しかしモルヒネの使用は、すでに90%以上の患者に有効性が証明され、WHOでも推薦されているがん疼痛治療法であることを考えると、この消費量の低さには他の理由があるのかもしれない。

中長期的に見ての需要の増大、潜在的需要の掘り起こしなどで仮に現在の数倍の規模でアヘンを生産する必要性があったとしても、取り組まなければならない課題はさらに多い。

先ほどのINCBの調査報告書によると、医療用アヘン使用が進まないのはなぜだと思うか(複数回答)という問いに対し、
72% アヘン中毒になることへの懸念
59% 医療関係者が十分な訓練を受けていない
47% 法的制約が気になる
38% 盗まれたりすること、管理責任が発生することへの懸念
38% 管理に伴う事務手続きの増加
34% 合法アヘンの不足
34% アヘン流出、転用の危険
31% コスト
22% 医療関係者の不足、施設の不足
19% 輸出入にかかわる事務手続きの発生
16% 流通経路の問題点
13% 国家の政策の不在

などが挙げられている。仮にアフガニスタンのアヘン生産を合法化するとしてもそれが非合法の闇市場に流れないように管理するのは政府の役割となる。現在のアフガニスタン政府にはそのような権力はない。各地に跋扈する軍閥と交渉するのが最も現実的なのだろうが、中央集権型の国づくりを行っている現状においては、政治的にそのようなオプションは存在しない。

しかし現状を見ると中長期的に見込まれる需要の拡大や日本のような国において潜在的需要を掘り起こすということ考慮に入れたとしても、アフガニスタンを合法アヘン管理の枠組みに入れる必要性がそこまであるわけではない。 上に触れた研究とデータによれば、日本におけるモルヒネ、フェンニタル、オキシコドンの年間消費量が3,151キロ(モルヒネ換算)。これを日本の19.1倍というアメリカの水準にまで引き上げるとすると、年間必要になるのは、60.1トンである。つまり57トンほど輸入を増やせば、1年間まかなえる計算になる。また世界に目を広げてみても、1,500万人の新たなガン患者すべてに世界トップレベルの処方(人口100万人1日あたり700.5グラム)を行ったとしても3.83トンが追加で必要なだけである。この程度であれば、仮に増産が必要になったときには、例えばインドなど既存の合法アヘン生産国で対応可能であり、既存の枠組みの中で生産調整を図るほうが、山ほど不確定要素を抱えるアフガニスタンに頼るよりも、はるかに低コストでニーズにこたえることができるわけである。

費用対効果で考えれば、以上のような結論になろうが、平和の構築のためという別の目的で正当化できるのであれば、可能性がないわけではない。EU議会のアフガニスタンのアヘンを医療用アヘンとして合法化するイニシアチブを支持しているのも、アフガニスタンの平和構築のためには他に有効な手段がないという状況を理解してのことであろう。
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by iyasaca | 2008-02-09 09:06 | アフガニスタン・イスラム共和国 | Comments(0)


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